2013年6月16日日曜日

ラミネートチューブ

 ラミネートチューブのような白。それが黒に果てしなく近い焦げ茶とが交差する。グロス。グロッシー。なめらかな輪郭をなめらかな物質が作る。
 エッシャーは魚のだまし絵を水面を見て思いついたのではないだろうか。空梅雨の6月が川面に描く画像は図と地の反転を何度も繰り返し瞳を幻惑する。
 長い面談を最後に長い一週間が終わった午後、僕はゆっくりと街に自転車を漕ぎだした。まだ新月の覚めやらぬ金曜日だ。足取りは定まらない。二駅向うの街になんとなく向かう。踏切をふらふらと越え、道ともつかぬ道に入って阪急線と並行した道を行く。二人の子供たちが産まれた産院を右に再び踏切を越える。小さな酒店がある。石井先生のことを考えていた。3月11日に亡くなった。ビールを持っていこうかと真剣に考えていた。あの家ならまだ喪に服しているだろう。私も囚われたままだ。まだ消化しきれていない。2月に普通に話していたのに1か月も待たずに他界した人のことが脳裏から離れない。母が死んでまだ日が浅いからか、生の不条理を突き付けられたままでいる。もっとも、それは正しくない状態ではないかもしれない。すべてが永遠に続く幻想の繭の中でぬくぬくと貪る甘はゆい夢よりはよほど健康かもしれない。
 寿司屋でプレミアムを二本飲んで、真夏のような真っ青の空の下で僕はもう少し戯れていたいと思った。秘密基地に続くトンネルのような高架を左に見ながらJR沿いに走ると視界が開ける。河畔に降りる道があり、右手には芝が広がり高速の下を川がくぐっていく。河口へ。
 

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